図書館とスターバックスが隣り合わせになった複合施設「エトモ池上(2021年4月オープン)」を訪問しての雑感

 2021年の4月に東急池上線・池上駅がリニューアルし、複合施設であるエトモ池上が完成した。この建物の4階にはスターバックスがあるのだが、それと隣り合うようにして図書館がある。

 スターバックスと図書館が同じ建物に設置されることに対して、筆者はある懸念があった。それはスターバックスと図書館が併設されることで、図書館としての公共的な機能が失われるのではないかという懸念である。

 実際、過去に図書館と商業施設が同じ建物に入ったことで、図書館の公共的役割の一部が失われたことがあった。たとえば武雄市図書館(佐賀県)と海老名市立中央図書館(神奈川県)は、どちらもCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が運営を担当しており、「TSUTAYA図書館」と呼ばれている。どちらも館内にTSUTAYA書店とスターバックスを併設した、複合施設なのだが、こちらは色々な問題、批判があったようだ。

たとえば下記のような。

  • 配架がおかしい(書籍が独断で分類した)
  • 郷土資料の扱いに対する敬意がない(独断で廃棄した郷土資料があったという話も、真意は不明)
  • 地域の独自性に根ざしていない

 図書館は決して「無料のレンタルショップ」ではない。市場原理にまかせたのでは失われてしまう文献(本屋においてもまったく誰も買わないような本など)を、現在の人類にとって重要かそうでないかにかにかかわらず、保管し、いつでも閲覧できるようにしておくことも機能の1つである。それが公共施設としての図書館の役割である。「読む人がいない」「非効率」「面白くない」などの理由で、貴重な資料や地域住民にとって重要なサービスが失われてしまえば、図書館として意義を果たせていない。ゆえに、そこに批判が集まった。TSUTAYA図書館に対する批判は本稿の趣旨とはずれるので、詳しくは述べないが、気になる方は以下の記事をご覧にいただきたい。もしくは「TSUTAYA図書館 問題」などのキーワードで検索すると色々な批判が閲覧できる。

※参考

 池上図書館の運営はCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)ではなく株式会社図書館流通センターである。また建物全体の事情も違う。海老名中央図書館と武雄市図書館は、図書館の内部にスターバックスを併設していたが、池上図書館はエトモという商業ビルのなかに図書館とスターバックスがあるだけである。言い換えれば単に隣り合わせになっているだけである。ゆえに海老名中央図書館・武雄市図書館と池上図書館を単純に比較することはできない。

 一方で、スターバックスという民間企業と併設しているのも事実である。池上図書館は公共施設としての役割を果たせているのだろうか。それを確かめる上ではとても参考になる場所であるはず。

エトモ池上の構造

前置きが長くなったが池上図書館のエトモも構造を説明する。

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 ざっと説明すると以下のとおりになる。

  • 1階:池上駅のプラットホーム
  • 2階:改札、そば屋、売店、テイクアウト専門のお店(ケーキ屋、惣菜屋など)
  • 3階:スーパーマーケット(トーキューストア)とカルディ、カフェ
  • 4階:スターバックス、図書館、フィットネスジム
  • 5階:学童保育(キッズベースキャンプ α)、保育所(グローバルキッズ)、池上総合病院付属クリニック(内科、小児科、循環器内科)

 1階に池上駅のホームがあり、2階には改札と小さな売店、立ち食いそば屋(しぶそば)、そしてテイクアウト専門の惣菜屋やケーキ屋が並ぶ。エスカレーターをあがって3階にいくと、準高級スーパーである東急ストアがある。東急の建物だと考えられるので、自然なことである。

 そして4階にあがるとスターバックスと図書館が隣り合うようにして入居している。

 左側にスターバックス、右側に図書館。図書館はこの1フロアの半分のみとなる。縦長のフロアで、閲覧スペースや電源つきのデスク、多目的スペース、キッズスペースなどがあるが、図書館としては大きいとはいえない。 建物全体の考察は割愛するが、ひとまずスターバックスと図書館が隣り合っている4階のフロアについて考察していく。

池上図書館を訪問しての雑感

客のミックスはあまり起こっていないように思える

 筆者はこのスターバックスに期待していたことがある。高齢者がスターバックスを利用しているのではないか、という期待だ。

 以前「【スタバは排他的】スターバックスが持つ排他性とスタバの人気の秘密 」こちらの記事でも書いたが、スターバックスは難解なメニューと固くて高い椅子で、高齢者を排除するかのような空間になっているカフェである。

 そんなスターバックスだとしても、図書館と併設されていれば図書館を利用する高齢者が利用しているのではないか、そんな期待があった。もし高齢者も気軽に出入りできるような店舗になっていれば、スターバックスは公共的な場所として一役買うことになると。

 実際スターバックスを訪れてみると、高齢者の姿は一人も見当たらなかった。スターバックスを利用していたのは、どこのスターバックスでもよくみかける、それなりに若い人と、パソコンを広げている人であった。

 一方で、他のスターバックスの店舗よりも子どもが多いようにも思えた。やはり保育所・学童が同じ建物にあるからだろうか。

 図書館とスターバックスが隣り合わせになっているからといって、高齢者はやはりスターバックスを使うわけではない。スターバックスはいぜんとして高齢者を寄せ付けない存在であることが、この訪問でわかった。

図書館にしては騒がしい

 図書館の手前側、スターバックスと近い場所は、何かと騒がしい。スターバックスの客の声やドリンクを作るマシン、BGMなど色々な音が図書館まで入り込んでくる。図書館の奥にも読書スペースがあって、この奥のスペースは割と静かである。しかしながら、他の図書館ではありえないような騒音が入ってくるのは間違いない。

 これには賛否があるだろう。賑やかな図書館ともいえるが、一方で図書館の特徴の1つである静かさが損なわれているともいえる。静かな場所ではないと本が読めない筆者には、ちょっときつい場所であった。

利便性は向上し、利用者の増加を見込めそう

 スターバックスの有無には関係ないが、池上図書館が現在の場所に移転したメリットは大きいように思う。以前の池上図書館は駅から徒歩3分ほど歩いた、交通量が多い不便な場所にあった。それが池上駅から徒歩0分の非常にアクセスがいい場所に移転した。無料で利用でき、膨大な本とそれなりに静かで椅子がある空間である図書館が、駅から徒歩0分場所に完成したことは、住民にとっては大きなメリットだろう。嫉妬を覚えるほどである。

 同じ建物にはスーパーや保育園、学童があり、エレベーター、エスカレーターなどのバリアフリー化も十分になされている。図書館には高齢者やベビーカーを押す人も多く見受けられたので、4階に立地したことは高齢者や子育て世代の障壁にはなっていないようだ。

 また池上図書館を利用して驚いたのは、女性の利用者が多かったことだ。筆者が住む街にある老朽化した図書館は、女性客が少ない。多くが男性であり、また表現が悪いが、少し汚い近寄りがたい人(ホームレスっぽい人)が居座っていることも多々ある。そういった場所は、いくら図書館であっても女性や、小さい子どもを持つ親にとっては不安だろう。池上図書館はそういった側面、つまり近寄りがたい人がほぼゼロだった。

 おそらく図書館が4階にあることや、人の往来が多いこと、新しい建物で清潔感があることなどが、障壁となっていわゆる近寄りがたい人を遠ざけているのだろう。

 もちろん近寄りがたいような人でも利用できることが図書館の公共性ではある。しかしそういった人のせいで、図書館を利用できず、不利益を被る人がいるのも事実だ。池上図書館はリニューアルすることで、汚い人を排除し、クリーンな空間を作り、多くの人が利用できる場所になったといえる。

終わりに

 商業施設と図書館が併設する例はすでにたくさんあるが、今後もどんどん増えていくだろう。利用者数の増加とコストカットの両方を同時に目指せるので、表面的なメリットは大きいと考えられるからだ。

 実際、商業施設と図書館が同じ建物に入居する例は、珍しいものではない。たとえば千葉県茂原市の図書館はショッピングモール内にある。青森県つがる市の図書館はイオンモール内にある。このような図書館と商業施設が同じ建物に入居する例については、図書館の利便性や地域の活性化を目指して、いくつか研究がなされているようである。

※参考記事

全国の商業施設・複合施設に併設する主な図書館 | 商業施設新聞

 池上に完成したエトモや佐賀の武雄市図書館のように、官民複合施設はもはや当間の時代である。一方で、そこにしっかり公共性は担保されるのだろうか。スターバックスの研究と一緒に、考察できればと思う。