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なぜミルクレープはチェーン店でしか見かけないのか? ミルクレープの特殊性とミルクレープの歴史について

 ミルクレープはチェーン店でよく見られる一方、個人の洋菓子屋やカフェでは見られない特殊なケーキである。


 ご存知のとおりミルクレープは、クレープ生地を重ねてケーキ状にしたスイーツだ。不二家、シャトレーゼといった定番のケーキ屋ではもちろんのこと、ドトール、ベローチェなどのカフェ、コンビニ、スーパー、そしてくら寿司やはま寿司などの格安寿司屋でもみられる根強い人気があるスイーツだ。

 わたしは仕事の一環で洋菓子屋やコンビニ、スーパー、カフェなどの洋菓子を調査しているのだが、その活動のなかであることに気づいた。それが冒頭で書いたチェーン店でしか見られないというミルクレープの特殊性だ。本記事ではミルクレープの歴史を紹介するとともに、その特殊性について考察していく。

【ミルクレープの歴史】ミルクレープは1988年に日本で生まれた和製菓子

 まずはミルクレープの歴史について。

 ミルクレープは、どこからどう見ても洋菓子だが実は日本で生まれたケーキである。洋菓子要素が多いカステラは、日本生まれなので和菓子に分類されているが、ミルクレープは日本生まれでも今のところ洋菓子に分類されている。

 ミルクレープは「日本生まれだけど洋菓子」というややこしい出自をもっているのだ。「和製洋菓子」というべきかもしれない。

イタリアンシェフの関根俊成がラザニアから着想を得て考案

 そんなミルクレープが誕生したのは割と最近で、1988年のことだ。西麻布のイタリアンレストランでシェフをしていた関根俊成が、ラザニアから着想を得て開発した。(“ミルクレープの生みの親”が新ブランド 大阪・梅田に1号店出店 | WWDJAPAN

 

 「ミルクレープ」という名前はフランス菓子のミルフィーユ(ミルフイユ)の「ミル(千を意味する)」からきているそうだ。

 ちなみにWikipediaでは、ミルクレープを最初に出したのは西麻布の「ルエル・ドゥ・ドゥリエール」であるという説と、南麻布の「ペーパームーン」であるという説があると紹介されている。それぞれの店が元祖を主張しており、どちらも同じ工場でケーキを作っていたためこのような事態になったのだと。(ミルクレープ - Wikipedia

 この、どっちが先に提供したのか問題について、さらに詳しく調べてみたところ、そもそも「ペーパームーン」は「ルエル・ドゥ・ドゥリエール」から独立した店であった。またミルクレープの生みの親である関根俊成は1986年に「ルエル・ドゥ・ドゥリエール」に入社し、1995年に「ペーパームーン」に移籍している。つまりどちらの店にも関根は在籍していたのだ。おそらくどちらのお店も同時期にミルクレープを販売していたのだろう。

 またあるブログ(ペーパームーン@ミルクレープ | スイーツ番長 DOLCE VITA~男のスイーツ SINCE 2007)では、ルエル・ドゥ・ドゥリエールが別の会社に買収されたために、ペーパームーンとは関係がなくなり、それゆえに両社がミルクレープの元祖を主張しているのではないか、と考察している。

 いずれにしても開発したのは関根俊成で間違いないようだ。彼が監修したミルクレープは、現在、casaneo(カサネオ)というお店で購入できる。(カサネオの公式サイト

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関根俊成が監修したcasaneo(カサネオ)のミルクレープ

ミルクレープを有名にしたのはドトール

 そしてミルクレープの認知度を一気にあげたのがドトールコーヒーだ。ドトールコーヒーはミルクレープの生みの親である関根俊成の監修の元、ミルクレープを開発。1996年に全国で販売した。 (“ミルクレープの生みの親”が新ブランド 大阪・梅田に1号店出店 | WWDJAPAN

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ドトールのミルクレープ

 ドトールコーヒーのミルクレープは大ヒットし、全国に広がった。いまでは定番ケーキの1つとして、カフェ、ケーキ屋のみならず、コンビニ、スーパーそして寿司屋でもみかける。食べたいと思ったらすぐに食べられる手軽なスイーツの1つになった。

ミルクレープの特殊性とは?

 ミルクレープは手近にあるスイーツになった。一方でミルクレープを見かけるのは、ケーキ屋であれカフェであれ、チェーン店ばかりだ。個人経営のカフェやケーキ屋ではあまりみかけない。いったいなぜ、ミルクレープは個人店ではあまりみかけないのだろうか。その理由はミルクレープにかかる手間と、ミルクレープの希少性の低さにあると筆者は考えている。

ミルクレープは手間がかかる

 ミルクレープの構成要素はクレープ生地とホイップクリームというシンプルなものだし、レシピも想像しやすい。パティスリーと呼ばれるケーキ屋でみかける、読み方がわからないケーキのような難解さや複雑さは感じられない。ゆえにミルクレープにはそれほどありがたみを感じることはないかもしれない。

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 しかしそのシンプルな見た目に反して、ミルクレープは非常に手間がかかる。クレープ生地を大量に作って、その間にホイップクリームを挟み層にしていけばいいだけなのだが、これがそう簡単ではない。

 客に販売できる大きさのミルクレープを作るにはまずクレープ生地を焼くための大きな鉄板が必要だ。家庭用のホットプレートでは大きさが足りないので、クレープ屋がもっているような大きな鉄板が必要だろう。

 そして厚み、面積が均一のクレープ生地を大量に焼かなければいけない。たとえレシピがわかっていても、大量のクレープ生地を均一の大きさで作れる技術と自信と体力と時間がある個人店は多くはないだろう。

手間と技術を必要とするため、一日数個しか作ることができず幻のスイーツと呼ばれた

 ミルクレープ専門店のカサネオは公式サイトで、ミルクレープについて上記のように記載しているが、そう呼ばれる理由もわかる。

ミルクレープは手間がかかるのに、希少性が低い

 これまで説明してきたように、ミルクレープは非常に手間がかかるケーキだ。それにもかかわらず、コンビニやスーパーでも売っているありふれたケーキである。フランス語を使った難解な商品名のパティスリーのケーキに比べるとありがたみは劣るといわざるをえない。

 ミルクレープは根強い人気があるのでコンビニやスーパー、ドトール、ベローチェ、不二家、コージーコーナーなど大手のチェーン店がよく販売している。一方で、個人経営のカフェや洋菓子屋ではほとんど見られない。それは個人店で作るにはあまりにコスパが悪いからだろう。

 簡潔にいえば、ミルクレープは手間がかかるのに希少性が低いのだ。普通、手間がかかる面倒なものは、希少性が高くなるものだが、ミルクレープは逆だ。手間がかかるのに、希少性が低い。手間がかかるのに、ありふれているのだ。ミルクレープはそんな特殊性をもったケーキなのだ。ミルクレープがそのような特殊性を帯びたケーキになったのは、ヒットのきっかけを作ったのが、全国チェーンの格安カフェ「ドトール」であり、「ミルクレープはチェーン店で食べるもの」という観念がついてしまったのかもしれない。

お店のミルクレープまとめ

 最後にお店のミルクレープをまとめて紹介していく。「ミルクレープなんてどこも同じ」と思っている方もいるかもしれないが、当然のことながら、各社様々であり、写真をみるだけでも、各社の違いがわかるのではないだろうか。

YATSUDOKI(やつどき)

コージーコーナー

casaneo(カサネオ)

ドトール

エクセルシオールカフェのミルクレープ

エクセルシオールカフェ

 

ミルクレープ

ベローチェ

※参考文献

-PRTIMES https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000028015.html

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000044.000035774.html

-casaneo公式サイトhttps://casaneo.jp/

-WWD “ミルクレープの生みの親”が新ブランド 大阪・梅田に1号店出店 https://www.wwdjapan.com/articles/519261

-おいしいマルシェ ミルクレープの生みの親が30年かけて辿り着いた!究極のミルクレープが新登場 https://marche.otoriyose.net/article/10608