【書評】『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』|この本から私たちが考えるべきこととは?

書評・書感

「フードテック革命に日本不在」
そんな嘆きからはじまるのが、本記事で紹介する『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』である。

本書の著者は、2016年にシアトルで開催されたスマートキッチンサミットに参加したのだが、日本企業が不在だったことに気づいたそうだ。日本には「日本食」という世界から注目されている食文化がある。家電量販店にいけば、ハイテクなキッチン家電がずらりと並んでいる。日本は食文化もキッチン家電も最先端を走っていると思っていた。しかし実際はそうでなかった。

日本発のフードイノベーションを加速させなければいけない、そんな思いから本書は執筆された。

著者は、コンサルティング会社に属する4人である。コンサル会社が書いているからなのか、聞き慣れないカタカナ語が多用されており、読みにくい面もあるが、フードテックの最新トレンド、それらトレンドが生まれた背景などを総合的に紹介している一冊である。

フードテックとは?

主題はフードテックなのだが、フードテックとは。

フードテック(Food Tech)とは、食とITの融合のことである。たとえば、スマート冷蔵庫のような、冷蔵庫の中身を管理してくれて、何が不足しているかを教えてくれるものや、火加減を自動で調整してくれる鍋などもフードテック領域にあるものだといえる。

またIT企業が食の領域に興味を持ち、新しい食品やキッチン家電を生み出している状況も「フードテック」と呼ぶと本書では定義している。たとえば大手IT企業のDeNAに勤めていた橋本氏が手掛けた、完全食のBASE FOODもフードテックの一分野となる。

つまり、IoTやAIが組み込まれた家電だけではなく、IT業界の人、企業が食の領域に進出する例も含めて、フードテックである。ゆえに本書では、キッチンOSのような家電の先端技術の話題だけでなく、代替プロテインや食品ロスなど、環境問題や社会問題に関わる領域についても触れている。

フードテックのトレンドを多くの日本人に紹介した一冊

前述のとおり本書は「フードテック領域で日本の存在感が弱い」ことが冒頭で述べられている。たしかに日本人のフードテックに対する関心は高いとはいえない。

最近になって、やっとプラントベースフード、ヴィーガン、サスティナブルなどのワードを耳にするようになったが、SDGsという言葉が注目される以前は、一部の物好きや専門家が知っているくらいのものであっただろう。それでも、畜産による環境負荷を軽減することが主目的であるヴィーガンを、単なる動物愛護活動だと勘違いしている人もまだまだ多い。環境保全のためのオーガニックを単なる健康食品だと勘違いしている人も多い。

日本には美味しいものがたくさんあるが、それら食べ物がどこでどう作られているのか、それら食べ物がどれほど社会や環境に負荷を与えているか、これらについて関心をもっている人、知識がある人は非常に少ない。

そんな後進国の日本に、世界のフードテックのトレンドと、それらが注目されている背景を総合的に紹介したのが本書『フードテック革命』である。

本書が出版される前にもフードテックについて解説した本がないわけではなかったが、『フードテック革命』ほど話題になったものはないように思う。この一冊を読むことで、フードテックが、料理の効率化や時短、食品の品質や味の向上だけなく、なぜ代替プロテインや培養肉、ヴィーガンが注目されているのかといったことや、フードテックが社会問題や環境問題の解決にもつながることを、多くの日本人が知ることができるだろう。そしてその意義はやはり大きい。

それにしても『フードテック革命』が話題になったのは、ビジネス書の体裁をとっていたからだろう。つまり、この本がビジネスや金儲けに役立つのではないか、という錯覚を多くの人に与えることができたのだ。実際、新しい事業創造のヒントになることを本書は目的の1つとしている。食関連のスタートアップのインタビューも掲載されており、普段のビジネスに役立ちそうな内容も多くあり、だからこそ多くの人が手にとったのだろう。

『フードテック革命』から読者が考えるべきこと

本書では様々なフードテックの事例が紹介されている。どれも一見、社会にも個人にも良いもののように思える。しかし私たちは、本当にそれらのフードテックが良いものなのかを考える必要があるだろう。

たとえば6章では、DNA検査とスーパーでの買い物を融合させたサービスが紹介されている。英国のスタートアップ「DNA Nudge(ディーエヌエーナッジ)」が開発したサービスで、まず客はスーパーで買い物をする前にDNA検査を行う。1時間程度で検査の結果がわかり、そのデータが読み込まれたリストバンドを客は受け取る。商品のバーコードにリストバンドをかざすと、自分のDNAにマッチしているものは緑に、マッチしていないものは赤く光る。これにより自分の体質に合わない成分が入っている商品を事前に避けることができる。

このサービスは一見、健康維持や体調管理に役立ちそうだ。しかしDNAの検査結果によって強制的に買えないものが生じてしまう場合、それが良いものとは言い難い。たとえばDNA検査の結果によって糖尿病になるリスクがあると判明したとき、スイーツをはじめとする糖質が高い食品を、一切購入できなくなるとしたら、それは人類にとって幸せだろうか。どんな人にも、脂ギトギトのラーメンを食べる権利はある。たとえ生活習慣病のリスクが高い人であっても大量のドーナツを購入し食べる権利はある。属に愚行権と呼ばれるものであるが、好きなものを食べる権利は誰にでもある。

前述のようなDNA検査結果と買い物を融合させたサービスが、そういった権利・自由を奪わないだろうか。それを私たちは注意深く監視しておく必要があるだろう。

『フードテック革命』は技術とトレンドを紹介するだけのビジネス書なので、個々の技術が、長い目で見て人類の幸福に役立つか否か、という考察や評論には紙面が割かれていない。そういった考察は読者に委ねられている。ならばこの本の読者がやるべきことは、新しいビジネスのアイディアを得るよりも、個々のフードテックが人間にとって、日本人にとって、本当に良いものなのか? これを考えることだろう。

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