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スタバのテーマパーク「スターバックスリザーブロースタリー東京」はどんな場所か?|特徴、従来店との違いなど

 このブログでは、日本最大のカフェチェーンであるスターバックスについて、その影響力が強まることの是非をあれこれ考察している。

 当ブログの調査対象であるスターバックスは、2019年に一風変わった店舗を東京中目黒にオープンした。それが「スターバックスリザーブロースタリー東京」である。今回はこの店舗について、従来の店舗をどう違うのか、どんなコンセプトの店舗なのか、といったことを紹介できればと思う。

スターバックスリザーブロースタリー東京とは?

スターバックスリザーブロースタリー東京

 

まずは店舗の概要から。

 「スターバックスリザーブロースタリー東京」は、東京の中目黒にあるスターバックスの店舗の1つである。この店舗は他のスターバックスの店舗とは違い、コーヒー豆の焙煎所を併設している。普通のスターバックスの店舗はあらかじめ焙煎された豆を仕入れて、使用している。

高品質のコーヒー豆の淹れたてが飲める

 また使われる豆は「リザーブ」と呼ばれる、スターバックスで取り扱うコーヒー豆のなかでも、希少性が高い最高ランクの豆である。「リザーブ」はスターバックスの独自基準である。

 その他、普通のスターバックスは、専用のマシンであらかじめ抽出したコーヒーを提供する(注文すれば淹れたてを作ってもらえる)が、このの店舗は、例外なく注文を受けてから抽出してくれる。さらに抽出方法も多様で、サイフォン、ハンドドリップ、プレス、クローバー(クローバー社の器具を作った抽出方法)などがあり、好きな抽出方法を注文できる。

 一般的なスターバックスの店舗に比べると豆の質が良く、抽出に手間と暇がかかる。ゆえにコーヒーの値段は普通のスターバックスの倍以上である。

 他の特徴についてはこれから述べていくことになるのだが、簡単にいえば「スターバックスリザーブロースタリー東京」は焙煎機があって、希少性が高い豆を使った淹れたてのコーヒーが飲める店舗なのである。

 ちなみに店のコンセプトは以下のとおり。

 尽きることのない、コーヒーに対する私たちの愛、情熱、願い、魔法を全て閉じ込めた特別な空間を作りたいとずっと夢見てきました。
スターバックス リザーブ ロースタリー 東京は、コーヒー豆から焙煎にいたるまであらゆる点でこだわりぬいた、のめりこむような体験を心から楽しむことのできる場所です。

スターバックス公式サイト

 この店舗はコーヒーに対するスターバックスの情熱、願い、魔法を全て閉じ込めた特別な空間が体現することの成功した場所なのだろう。

中目黒は世界で5店目に、設計は隈研吾

 中目黒に誕生したのは5店舗目であり、他にはシアトル、ニューヨーク、ミラノ、上海、シカゴ(6店目)にある。

 設計を手掛けたのは、国立競技場などの有名な建築の設計を手掛ける隈研吾。現在日本でもっとも有名な建築家である。その他、内装業者やテーブル、チェアーについても国内業者に発注している。

スターバックスリザーブロースタリー東京
スターバックスリザーブロースタリー東京

スターバックスリザーブロースタリー東京

 隈研吾が設計した店外デザインは、日本独自の建築様式である庇(ひさし)を取り入れている。
(参考:https://youtu.be/eSJzPuQ9M3g

 またテラス席のテーブルとチェアーは「天童」という企業に発注し、素材には日本固有に建材であるスギを使用した。
(参考:https://youtu.be/gsXW23tGKfM

 日本の業者はもちろんのこと、スギのような日本固有の材料や、庇(ひさし)のような日本の建築技術を取り入れ、地域密着型で店舗を設計している。スターバックスは他のチェーン店とは違い、独自の店舗デザイナーを抱え、地域を尊重した店舗をデザインしているが、その理念が色濃くあらわれた店舗だといえる。

 デザインや建築に関しては、スターバックスの公式サイトで詳しく解説されているので、参考にしていただきたい(スターバックス公式サイト)。

スタバのテーマパークである

 さて、そんなス「スターバックスリザーブロースタリー東京」を訪問してわけだが、感じたのは、ここはスターバックスのテーマパークであるということだ。

コーヒーを受け取る時にいわれる「行ってらっしゃいませ!」

スターバックスリザーブロースタリー東京

 まず驚いたのが、注文したコーヒーを受け取った後に「行ってらっしゃいませ!」と言われたことだ。

 普通のスターバックスの店舗、もしくは他のカフェでなら、コーヒーを受け取った時は「ごゆっくりどうぞ」や「ありがとうございました」などの言葉が普通である。

 しかし「スターバックスリザーブロースタリー東京」では「行ってらっしゃいませ!」だ。完全にテーマパークだ。「行ってらっしゃいませ!」は、テーマパークのチケットゲートをくぐった時や、アトラクションに乗った時に、クルー(スタッフ)にかけてもらう言葉である。

 それがスターバックスのレジでもいわれる。スターバックスというアトラクションをどうぞお楽しみくださいませと言わんばかりに。

BGMは気分が高揚するようなダンス系

 店内BGMは、一般的なスターバックスの店舗とだいぶ違っている。

 普通のスターバックスの店舗のBGMは、ジャズ系の落ち着いた曲が中心だ。一方で「スターバックスリザーブロースタリー東京」は、ヒップホップ調だったり、4つ打ちだったり、ダンス系のミュージックが多い。店内BGMをスマホで調べてみたが、ヒップホップやテクノ、エレクトロなどのジャンルに属する、踊れる曲が多かった。

 またスピーカもちょっと特殊である。ドン、ドン、ドンというキックの音が強調されるようなものを使っているように思われる。公式サイトによると、スピーカは天井の内部に仕込んだ特注のものを仕様しているそうであるが、他のチェーンカフェよりは幾分、重低音が強調されていた。パーティー会場としても使えそうレベルである。

 落ち着いた雰囲気を演出する普通のスターバックスの店舗とは逆に、アップテンポの楽しくなるような、踊りたくなるような雰囲気の曲ばかりである。

焙煎機の音がひっきりなしに鳴り響く

スターバックスリザーブロースタリー東京。店内中央を貫く焙煎機
店内中央を貫く焙煎機

 店内では常に焙煎機が稼働しており、その焙煎機の音や、天井のパイプを伝ってコーヒー豆が移動する音、豆の販売カウンターの壁に設置されているアナログボードのカチカチという音など、常に何かしらの音が鳴り響いている。

 うるさい、耳障り、と感じるようなものではなく、あくまで楽しくなるような心地の良い音である。また焙煎機が稼働する様子やそのまわりにいる焙煎士がせわしなく動く様子、天井のパイプを豆が移動する様子を見ているのは楽しい。工場見学にきているようだ。

 ただし、焙煎機の音がせわしなく鳴り響くかで、「仕事や読書は無理だな」と感じてしまった。もちろん読書、勉強をしている人もいたが。

 この音に加えて、エスプレッソマシンの音や人の話声、ダンスミュージックである。気分が上がる要素がたくさんあるが、落ち着く、くつろげるなどの要素は少ない。この点もテーマパーク的だ。

仕事をする場所でも、サードプレイスでもない

 「スターバックスリザーブロースタリー東京」の席は、そのほとんどが、固い椅子のカウンター席である。またテーブルは基本的に狭く、なかにはドリンクを置くのがやっとのカウンター席もある。

スターバックスリザーブロースタリー東京のカウンター席の写真。この席は店員が目の前にいる。
この席は店員が目の前にいる。

スターバックスリザーブロースタリー東京のカウンター席の写真。この席はテーブルが狭い
この席はテーブルが狭い

もちろん、低いゆったりできるような席も一部にはあるのだが、どれも硬い天板を使った椅子であり、なによりこの規模の店舗にしてはその数が少ないように思える。

 一般的なスターバックスであれば、カウンター席でもテーブル席でも、パソコンや参考書を広げるには十分なスペースがある。テーブルの高さもパソコンをいじるのに不便しない高さだ。

 しかしロースタリー東京はそうではない。思い切りパソコンを広げられるような席が少ないのだ。先の画像のカウンター席では狭すぎてパソコンを広げることはできない。店員が目の前にいるカウンター席ならパソコンを広げるには十分なスペースがあるが、店員が目の前にいるので、気が散って仕事にならないだろう。

 低い椅子もあるが、テーブルが膝くらいの高さ(座った時の膝くらい)なので、パソコンを使うには不便であり、長時間の仕事は無理だろう。

 パソコンを広げるのに不便しないテーブル席もわずかに存在する。しかしその数は、この規模の店舗にしては極端に少ない。全体の2割くらいだろう。大半はパソコンをいじるには不便な席なのである。

 前述のとおり店内は割と騒がしいので、落ち着いて仕事ができる環境ではない。一般的なスターバックスのように、サードプレイスのような一息つく場所ともまた違う。やはりテーマパークなのだ。

 「仕事なんてしないで、スターバックスの価値観を楽しめ!」というメッセージを、家具やBGM、焙煎機とその音によって発しているかのようである。

 実際、多くの人は仕事などせず、友人や恋人とカウンター席に座り会話を楽しんだり、店内を観光したりしている。1人客であっても店内の様子をぼーっと眺めたり、店内を歩き回ったりして、観光しているようであった。仕事や読書ではなく、スタバの価値観を楽しんでもらうこと、これを想定して店内を設計しているのではないだろうか。

 店内の様子は以下の動画でもわかる。時間がある方はぜひみてほしい。


The Journey of STARBUCKS RESERVE™ ROASTERY TOKYO

 ちなみにYoutubeでシアトルやニューヨークの「スターバックスリザーブロースタリー」の様子をみてみたが、日本よりは低めのテーブル席が多いようであった。日本は店舗面積の関係で、狭いカウンター席を多めにする他なかったのだろうか。それともやはり「仕事なんてするな!」というメッセージなのだろうか。

 またニューヨークやシカゴなどの店舗もやはりテーマパークのようである。パソコンを広げている仕事をしている人は見受けられなかった。

 中目黒の店舗では、狭いスペースを利用してパソコンを広げている猛者もいたが、やはり場違い感もある。それは遊園地でパソコンを広げて仕事をしているような感じであるから。

スターバックスリザーブロースタリー東京は単なるカフェではない

 すでに他のブログでもそのように言われているが、「スターバックスリザーブロースタリー東京」はテーマパークである。単なるカフェではない。

 これまで説明してきたように、ここは決して落ち着けるような場所ではない。仕事や読書をしたり、仕事帰りに一息ついたりするような場所でもない。そうではなく、他のことを何もしないで、スターバックスの価値観や理念を体感するための場所である。

 あの店舗がテーマパークであることは、その立地からもわかる。普通のスターバックスの店舗はとにかく立地がいい。駅から近い場所やランドマークとなる建物、公園、図書館など誰がどう考えてもいい場所に出店している。たとえば中目黒駅でいえば、改札を出て徒歩30秒ほどの場所にスターバックスがある。

 一方で「スターバックスリザーブロースタリー東京」は、土地柄は良いが駅から徒歩14分というアクセスの悪い場所にある。ゆえに近くに職場や家が限り日常使いはできないし、待ち合わせや時間調整のためにふらっと利用できる場所でもない。

 前述のとおり中目黒には、駅をでてすぐの場所にスターバックスがある。この店舗は、待ち合わせや一息つきたい時などにふらっと利用できるし、職場に向かう前や仕事帰りなど日常的に利用する場所である。しかしこの店舗に訪れるためだけに遠方から中目黒を訪れる人はほとんどいないだろう。

 一方で、「スターバックスリザーブロースタリー東京」はふらっと利用したり、日常的に利用したりするような店舗ではない。立地的にも、値段的にも、内装的にも。しかし、このロースタリーを訪れるためだけに遠方から中目黒にいくことは十分にありえる。

 ここにいくのは1つのイベントだ。ロースタリーが目的地になる。ロースタリーに行くという予定が立つ。1つのメインイベントになる。このためだけに中目黒駅に行き、そこから14分歩く。それが十分にありえる。というよりそれしかないといえる。

 簡単にいえば、「スターバックスリザーブロースタリー東京」は非日常なのだ。普通の店舗のような日常の延長線上でも、サードプレイスでもない。スターバックスの価値観や理念を楽しむための一大テーマパークだ。スターバックスの工場という名のテーマパークなのだ。

スターバックスリザーブロースタリー東京から感じる、スタバの羽振りの良さ

スターバックスリザーブロースタリー東京の焙煎機の写真

 「スターバックスリザーブロースタリー東京」を訪問して思い出したのは、かつて二子玉川に存在した「グリルデガバチョ」というレストランだ。

これは「ひょっこりひょうたん島」という1964年から1969年までNHKで放送されていた人形劇のキャラクターをモチーフにしたテーマパークとレストランを合体させたようなレストランである。筆者は小さい時によく連れていってもらったのだが、このレストランが大好きだった。

「グリルデガバチョ」がオープンしたのは1996年頃である。

 「スターバックスリザーブロースタリー東京」は、「グリルデガバチョ」が存在していた、まだ日本に元気があった時代を思い出せてくれる。 

 ここから感じるのは圧倒的な羽振りの良さだ。目黒区という土地柄に立てた地上4階だての飲食店。一流の設計士、デザイナーを起用し、特注の家具や食器を用意。何十万円もするエスプレッソマシンと腕のあるバリスタ。そして店内の中央に鎮座するどでかい焙煎機は圧巻である。

 こんなことができるカフェチェーンはスターバックスだけだろう。資金的に可能な企業なら日本にもたくさんあるかもしれないが、今どき、わざわざこんなテーマパークを作ったりはしないだろう。こんなに大胆なことができる企業はやはりスターバックスだけだ。

 この羽振りの良さは、なにかこう、まだ元気があった頃の日本を思い出ださせてくれる。景気後退、少子化、さらに新型コロナの追い打ちもあって、多くの飲食店が潰れている。新しくオープンするのは、大手企業が手掛ける、極度に無駄を排除した、システマティックで非人間的で、面白みがない飲食店ばかりだ。

 そういった飲食店は、普通に美味しいし、安いし、便利だ。しかし店にいくワクワク感があるかといえばそれは微妙だ。「スターバックスリザーブロースタリー東京」には、それがある。そしてその存在は、先に紹介したグリルデガバチョのような、なんだかよくわからないけどなんだか楽しいテーマパークレストランを作ってしまう、まだ元気がある時代を思い出させてくれる。

 あまり元気がない日本で、「スターバックスリザーブロースタリー東京」のようなバブリーなものが建設されたのは、異例かもしれない。しかも中目黒の店舗は、世界でも規模が大きい店舗らしい。景気が良くて、金回りが良い国は、他にたくさんあるだろう。それでも日本に建設された。

 スターバックスは外資系企業であるが、このようなワクワクするようなテーマパークを立ててくれた企業を、私たちは大切にしていくべきなのかもしれない。

 しかし一方で、テーマパークは単なる虚構であることを忘れてはいけない。東京ディズニーリゾートに存在しているもののほとんどすべてが、限りなく本物に近い虚構であるように、スターバックスリザーブロースタリーにあるものも多くが虚構である。大きな焙煎機や、天井を伝うパイプ、不思議な衣装に身をまとった焙煎士たちは、普通のカフェには存在しない。華美に演出された何かである。そしてこの演出は、スターバックスリザーブロースタリーだけでなく、スターバックスのすべての店舗でなされていることでもある。

 もちろんそれらによって私たちの束の間、舞い上がるのかもしれない。しかし、本当に大切なもの、街がスターバックスに覆われることで何が失われるのかを、常に考える必要があると筆者は思う。