一流の料理を1000円以下、予約なしで買えるケーキ屋はコスパがとても良いのではないか

 ケーキを食べるのが趣味で、月に2、3回程度ケーキ屋を利用しています。さらにネットで訪問したケーキ屋のシェフについて調べたり、製菓事業者向けの雑誌を読んだりしているのですが、その中で思うのは、ケーキ屋は一流の料理を安価で手軽に楽しめる場なのではないか、ということです。いうなればコスパが良い場なのではないでしょうか。

ケーキ屋は一流の料理が1000円以下、予約なしで買える場

 一部のケーキ屋には、高い技術と豊富な経験を持つシェフが、よりすぐりの材料で作り上げた「料理」あるいは「作品」と呼べるケーキがあります。しかもその多くが1000円以下であり、予約なしで購入できます。

ケーキ屋のケーキは一流シェフの技術と知識の結集である

 日本には華やかな経歴を持つ人がシェフを務めるケーキ屋が無数にあります。訪問したケーキ屋はほぼ必ず、店の創業年やシェフの経歴などを調べるようにしているのですが、有名洋菓子店や一流と呼ばれるようなホテルを3、4社経験しているのが当たり前といった感じです。それに加えてフランスやスイス、ドイツなどに渡り、現地のパティスリーやレストランで修行を積んでいるシェフもたくさん見かけます。ケーキ屋に並ぶケーキは、シェフがあらゆる店で修行を積み、培った技術と経験が集結した成果物です。まさに一流の料理です。

 ケーキ屋のケーキが一流料理であることは、その外見からもわかるのではないでしょうか。たとえばムースを使ったケーキは、素人ではどう作っているのかまったく想像できないものです。レシピを見ても、同じように作るのは到底不可能です。そもそも素人では手に入らない材料や、家庭料理では決して使わない調理器具が必要である場合もあります。

 ネットで簡単にレシピを調べられるチーズケーキやパウンドケーキのようなシンプルなケーキであっても、手間暇かかるレシピに驚かされます。時々、業界向けの雑誌を読むのですが、材料が1g単位で決まっていたり、材料を混ぜる順番や、材料の温度が細かく決まっていたりします。

 シンプルなケーキがすでに素人の想像超える大変さなのですから、4~5層のムースケーキはさらに大変です。そもそも単にパーツを組み立てるだけでなく、パーツそのものを作ることから始めています。その手間は想像を超えます。時々、ケーキ屋のケーキに対して「このぐらいだったら家でも作れる」なんて口コミがついていたりしますが、レシピがわかっていも素人には到底無理であることがわかります。ケーキ屋に並ぶのは、素人からまったく想像できない手間と暇がかかったケーキなのです。

 

 技術レベルが高いだけでなく、その材料も一流です。単に良い材料を使っているだけでなく、シェフが足と舌を使って探し当て、生産者からの信頼を得ないと仕入れられないような材料を使っていたり、独自の配合を研究していたりする場合があります。たとえば私はよくチーズケーキを食べるのですが、ケーキ屋ではよく「〇〇産と〇〇産のクリームチーズをブレンドしました」「〇〇チーズと〇〇チーズを加えています」といった説明書きがあります。家でチーズケーキを作る場合、使うクリームチーズケーキは1種類ですが、ケーキ屋では2種類、あるいは3種類のクリームチーズをブレンドしている場合があるのです。洋菓子によく使われる材料である小麦粉やバターについても、グルテンの含有量だけでなく、産地や品種レベルで、各お菓子に合う小麦粉を選んでいたりします。近年啓発が進んでいるチョコレートについても、産地ごとに膨大な種類があります。果物や野菜についてもそうです。生産者と信頼関係ができていないと仕入れられないような材料を使っている場合があります。

 ケーキ屋に並ぶケーキには、経験と知識が豊富なシェフが吟味した材料や、素人では到底手に入らないような高級な、貴重な材料が使われている場合があります。ケーキ屋とはそういったよりすぐりの材料と、豊富な経験と一流の技術によって生み出されたケーキが買える場です。しかもほとんどが1000円以下で、ほぼ予約なしで購入できます。

一流の料理が1000円以下、予約なしで買える

 ケーキ屋のケーキは、ホールケーキは別として1人用の小さいケーキであれば、基本的に予約なしで購入できます。人気の店は平日でも行列ができる場合がありますが、それでも並べば購入可能です。すべての商品が予約必須というのは非常に稀です。さらに1つひとつの料理(ケーキ)は、1000円以下です。500円程度、高くても700円程度です。1000円を持ってパティスリーに入り、予算内の商品を注文する、これができればほぼ誰でも一流の料理を楽しめるのです。

 一流レストランと比べるとこれは驚くべきことです。フレンチの名店や和食、イタリアン、中華、寿司の名店と呼ばれる店は、ディナーであれば数万円はかかります。ランチでも1万円は必要でしょう。しかもほぼ確実に予約が必須です。1年先まで予約が埋まっていることもあり、たとえお金があってもその料理を食べられない可能性があります。

 一方でケーキ屋は前述のとおり、基本的にお金を用意して店を訪問すればケーキを購入できます。もちろんフレンチのコースとケーキ屋の1人用ケーキではボリュームが違いますし、フレンチや和食など、飲食店の料金には料理だけでなく場やサービス、演出なども含まれています。またレストランとケーキでは用途が大きく違います。このような単純な比較は乱暴であることは重々承知しています。

 それでも「良い材料と一流の技術によって生み出された料理を味わう」という行為に焦点を当てた時、それを安価で成し遂げる方法は「ケーキ屋に行くこと」といえるのではないでしょうか。

おわりに

 日本のケーキは世界的にみてもレベルが高い可能性があります。世界中のケーキを食べあるいたわけではありませんが、日本の洋菓子のレベルが高いことを示す一つの指標があります。洋菓子の世界大会における日本チームの活躍です。洋菓子コンクールの世界大会として知られる「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」では、日本チームは毎年のようにベスト3に入賞しているのです。フランス、イタリア、ドイツ、スイス、ベルギーなど、洋菓子ネイティブの国々と堂々と肩を並べているのです。

 そして街のパティスリーには、このような世界大会で活躍したシェフが手掛ける店があります。またそのような店で修行を積んだシェフが手掛ける店が無数にあります。日本には世界レベルのケーキを置いているケーキ屋が存在し、1000円以下、予約なし購入できるのが一般的です。他国の環境は知りませんが、日本はケーキに関してとても豊かな環境があるといえるのではないでしょうか。

 今後は物価の上昇と労働環境の見直しで、ケーキの値段は上がるでしょう。その値上がりは健全といるでしょう。消費者としては安い方が嬉しいのは確かですが、その値段が、作り手に無理を強いることで維持されているのなら改善されるべきです。今後は、1000円を超える店も続々と出てくるかもしれません。それでも名店の技術の集結が、1000円程度で味わえるならまだまだ安い方なのではないでしょうか。

 ちなみに前述のような、日欧の有名店で修行して開業、といったような華やかな経歴を持たないケーキ屋(もっていなさそうなケーキ屋、公表していないケーキ屋)もたくさんありますが、そういった店も、名店に負けないくらいのケーキを出していることがあります。これは一流シェフのケーキが数百円で買える日本の環境や、一流シェフが製菓学校の講師を務めていたり、技術書を出版していたりと、技術の伝承を絶え間なく行っているからなのでしょう。

 もちろんすべてのケーキ屋が一流であるわけではありません。中にはひどいケーキ屋もあります。そういった店を避けるには、事前のリサーチが大切です。手っ取り早いのは食べログの百名店です。スイーツ百名店に記載されている店なら基本的には問題ないでしょう。その他、製菓事業者向けの専門雑誌で紹介されるケーキ屋などもおすすめです。柴田書店が販売している『cafe sweets』などを参考にすれば、一流レベルの店が簡単に見つかると思います。

 

 

 甘いものなので好き嫌いは分かれるかもしれませんが、甘いものに抵抗がなく、美味しいものを食べることの満足度が、他の物事に比べて大きいという方、いわゆるグルメな方は、一度ぜひケーキ屋のケーキ、特にパティスリーと呼ばれるようなケーキ屋の料理を楽しんでみてください。