『「食べること」の進化史(石川伸一)』の書評と個別化食について

 いまでこそ簡単に手に入る香辛料であるが、世界で流通するようになって間もないころは、まだまだ希少であり、また「万能の薬」として重宝されていた。そんな香辛料は、貴重であるがゆえに、供給を制限することで領民を支配するための道具として、また富や権力を誇示するための道具として使われた。食べ物は支配の道具として使われたのだ。

 食べ物に関してかかせないいとなみといえば料理だ。人間は動物のなかで唯一、料理をする生き物だといわれている。料理できることは人間であることの証ともいるのだが、逆に料理をしたからこそ、人間は他の類人猿よりも知能を発達させられたともいえる。

 人間が他の類人猿よりも発達した脳をもつことができた1つの理由は、火を使った料理ができたからだ。食材を加熱することで、食材から効率的にエネルギーを摂取できるようになり、脳細胞の発達に一役買ったのだ。

 食べ物は人の心を操るために使われた。料理は人の身体に変化をもたらした。たかが食であるが、それは身体や精神、生活、社会と密接に関わっている。

 ならば食の未来をひもとくことで、人間の未来のあり方を考えられるのではないか。そんな提案ではじまるのが石川伸一による著書『「食べること」の進化史 培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタ』である。

目次